火ではなく煙を眺める
職業に貴賤がないとは言うけれど、何が正しいんだろうと思うことがある。職業柄、公平公正を求められることが多いけど、やっぱり建前だよなあなんて考えてしまう。
何をするでもなく休日が過ぎていくことが続いていて、さすがにどうかと思って散歩をしてみた。
さてどこに行こう。
家から30分ほど歩くと、大きな神社がある。
家を出て少ししてから目的地が決まった。
その神社は結構大きなところで、公園や図書館も併設している。本を読まなくなってしまっていたから、前から図書館には行こうと思っていた。
ところが距離が絶妙に遠い。自転車を持っていないし駐車場もないとのことだったので歩いて行くには少し億劫で、なにかと理由を拵えて行けずにいた。
こんな気持ちになることもないし、よく晴れていたので歩いて行ってみる。
Bluetoothのイヤホンを着けると、電源が残り少ないとアナウンスが入る。
そう言えば金曜日に50%くらいになっていた。充電するのをつい後回しにしていたツケをここで払わされるとは思ってもみなかった。
こんな形で平日の俺が休日の俺を苦しめるとは、と少し憂鬱になりながらも歩いていくと、やっぱり30分ほどで着いた。
図書館は9時半から開館で、いま9時前。
せっかくだし神社を歩いて回ってみる。ぽつぽつと歩きながら不意にスマホに目をやると、イヤホンの電源がかなり少なくなっていることに気づく。
帰り道に聴けなくなってしまっては元も子もないので、イヤホンを外すことにした。
外した瞬間、鳥の囀りが耳に入ってきた。
鳥の囀りだ、と意識したのは久しぶりな感じがした。日常的に聴いてはいるのだろうけど、あまりはっきりと耳に入ってくることはないように思えて、しばらく色々な音に耳をそば立ててみることにした。
程なくして、境内の掃き掃除をしている女性が目に入った。
規則的に枯葉を掃く音はとても心地いい。
少し前に箒を買って、たまたま昨日家の掃き掃除をしたところで、枯葉をしっかり集める姿がとても綺麗に思えた。
彼女が掃き掃除をしていると、すれ違う何人もが彼女に挨拶をしていく。
こういう形の感謝の伝え方もあるのかなと思った。
会社の掃除をしてくれる清掃員の方に、「いつも綺麗にしてくれてありがとうございます」と伝えようか伝えまいか、異動してきてからずっと考えている。
別に向こうも仕事だし、と言えばそれまでだが、当たり前の環境を当たり前に整えてくれることはありがたいことだと思う。
せめて挨拶はきちんとしようと思った。
規則正しく枯葉を集める姿を見ながら、今年度の予算がもう無くなりかけていて、来年度にいくら持ち越そうか考えている平日の俺って何なんだろうと思った。
もうちょっと今後について考えなきゃな、と思ったところで時計を見ると、もう9時40分になっていた。
貸出カードって免許証で作れるのかな。
図書館に行こう。