結局プルオーバー

二転三転します

猫は借りられない

私は友人3人と一軒家を借りてシェアハウスをしている。もう5ヶ月ほどになる。

友人の一人が先輩の子供を預かる事が3ヶ月に1回くらいの頻度であって、今日がその日だった。

予約したはずの美容院に何故かさらりと断られすごすごと家に帰ると、件の子供2人が待っていた。

と言っても待っていたというよりは、駆け回る最中のセーブポイントに立ち寄った感じで、飛んだり跳ねたりしていた。

スマブラをしたり一緒に晩御飯を食べたりだっこやおんぶをして遊んでいると、母親が迎えにくるとの連絡が入ったので一旦外で2人で煙草を吸う事にした。するとお風呂から上がったのか、お姉ちゃん(姉弟で来ている)が玄関先で私たちを覗いていた。

どうしたのと聞くと、「家の中より外の方があったかいもん」と彼女は言った。

そうだろうか、湯冷めしないだろうか、髪が濡れている、乾かしてあげた方がいいのではないだろうかと一丁前に気を揉んでいると、友人の一人がおもむろに「春の匂いって分かる?」と彼女に尋ねた。

すると彼女は「分かるよ。春はあったかい匂いがする」とすぐに答えた。

友人が次に四季の匂いが分かるかと尋ねると、「夏は蒸し暑い匂い、秋は葉っぱの匂いで、冬は冷たい匂い。春はやっぱりあったかい匂い!」と無邪気に答えた。

私はなんだか泣いてしまいそうになった。

彼女の答えがあまりに素直で、迂闊にも胸を打たれてしまった。

奇をてらう訳でもなく、ありのままで、無垢で、それでいて大人からの問いに少しだけ背伸びをした彼女の顔があまりにも眩しかった。

私たちは誰かから何かを問われると、すぐに角度や見え方を気にしてしまう。彼女は私たちがどう思うかなどはまるで気にしていなかった。ただ思ったこと、感じていることをすっと口に出したのだ。

素直さはやはり子供の最強の武器だ。思うままに生きて、遊んで、考えて、立ち止まりそうになった時に大人が背中を支えてやればいい。彼女たちの邪魔だけはしてはならないと思う。

大人になるにつれて、喉から言葉を発すると痰以外にも絡まるものが沢山ある。彼女がどうか少しでもこの素直さを抱いたまま成長してほしいと、そう思った。